Yusaku Market
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アレなんだよなぁ〜!?

"2003 BOYS RUSH 2月号" 有島 武郎(田畑 拓也)



 「Yusaku Matsuda(修正前原稿)

語り継がれる松田優作伝説

1.「太陽にほえろ!」の石原裕次郎との初演シーンにまつわる話と、殉職シーンにまつわる話
 優作の最初はショーケンの最後を超える視聴率を叩き出す。大スター・裕次郎と絡む初演シーンで優作は何と緊張感なく、あくびをしながら相対する。裕次郎が見上げてセリフを言わなければならなかった最初の大男が彼である。殉職シーンに使われた有名なセリフ「なんじゃ、こりゃあ!」これには彼の故郷・山口弁のニュアンスが含まれている。優作自身は訛ることを嫌っていたのだが・・・。また、本当は最後のセリフにショーケン最終回と同じ意味の言葉(か〜ちゃん)が発せられていたのだが、オンエアでは削られている。普段陽気な優作と撮影隊も最終話だけは異常な緊張感に包まれていたという。(275)

2.「探偵物語」で衣裳など工藤俊作のコンセプトを自分で決めた話
 
「探偵物語」の原型になったのはフィリップ・マーロウが出てくる「ロング・グッドバイ」という映画。ファッションの原型は「ルパン三世」。確かにキムタクも真似したあの派手なカラーシャツにネクタイ、細身のスーツはそのものずばりだ。その上、ペスパ、ソフト帽、ダウンジャケット、コーヒー、ライター、タバコなど詳細な小物を優作自ら発案する。「既製ハードボイルド」を工藤ちゃん流「和製ハードボイルド」にした瞬間である。(200)

3.「ブラックレイン」のオーディション秘話
 リドリー・スコットは「見た瞬間を大切にする」。最初のオーディションでホテルのドアを開けた瞬間、残忍なやくざ・佐藤役は優作に決まっていた。最終オーディションに残ったのは3名。その中にはSやNなど超有名な俳優もいた。しかし、マイケル・ダグラスとの絡みを対等に渡り合ったのはアドリブも自ら取り入れた優作だけ。思わずリドリーは「直ぐにでもカメラが回せる」と叫ぶ。佐藤の役を優作が取ってしまったので、Sはプライドから出演を断る。Sを常に意識してきた優作は喜びに溢れる。決定後、優作はリドリーが自分のアクション以外の部分を評価してくれたことを知り、歓喜する。(273)

4.熊本美智子との出会いと別れ
 美智子は優作に対して「全身から発散する得体の知れないエネルギーに完全に取り込まれた」と表している。「硬質な魅力の正体を知りたいが、一方でやめておきなさい」という声も聞こえたと・・・。別れた後も優作と親交を続けた美智子は、処女作に彼の言葉に従い「優作」を題材に選ぶ。彼女との間に出来た娘・紗綾ちゃんが「Interior」というアルバムのジャケット絵を描いているのは有名な話。(179)

5.熊谷美由紀との出会いとスタンス
 「彼女は細胞が呼び合うというか、インスピレーションみたいな波長が合う」という優作独特の表現をしている。結婚後、彼は美由紀から「女性特有の子宮感覚」を見ようとする。一方、家庭を一度壊した男でも役者としてのスタンスは変わらなかった。優作は最初の離婚で「家庭との距離感の取り方を覚えた」と言っている。彼のスタンスは映画で活躍する長男・龍平に受け継がれる気がする。(178)

6.3年後の戸籍
 優作氏の生年月日は1950年9月21日になっているが本当は1年前の1949年に生まれている。しかも、出生届が出されたのがその2年後の1952年8月だった。つまり、彼は3年間生まれながらにして空白の日を過ごし、法律上は「私生児」だった。彼はこの生い立ちを切り売りしようかと考えたこともあったようだが、「陽炎座」を撮り終えた時にその呪縛から放たれ、生き方が変わったと語っている。(177)

7.アメリカでの挫折
 優作は母かね子の言葉に従い、高校を中退し、アメリカに住む叔母のところに留学する。最初は弁護士を目指し、希望に満ちて暮らす優作だったが叔母が自分の生活費を使い込みしていることを知り、一人生活を始める。アルバイトをして生計を立てるがその頃のアメリカは有色人種に対する差別が酷く、傷心のまま、帰国することになる。彼のアメリカでの経験は「人間の証明」で生かされる。(178)

8.ニュアンス
優作が好んで使っていた言葉に「ニュアンス」というのがある。これは「演技の1と2の間にコンマを入れる」というような微妙な部分を一つ一つ確かめながら演じるという非常に繊細な一面が現れている。このニュアンスを感じ取られず、手を抜いた人間には鉄拳制裁も厭わなかった。彼ほどの役者が「家族ゲーム」で初めて賞を取ったのは選ぶ側にこういう姿勢を評価されなかったからだろう。(179)

9.共犯者
 優作は仕事を選ぶ時の最大のポイントを「共犯関係」を持てる人としている。彼は「ア・ホーマンス」を監督した時に主演の石橋凌に対して、「現場でいい加減なことをやっているとフィルムになった時に非常な大きさの狂いを生じる」と指導。彼は監督としてだけではなく、もちろん役者としても数ミリの差違が許せなかった。自分にストイックな優作はスタッフにも共犯者意識を強く求めた。(178)

10.般若心経と日常
 優作が「アクション・スター」というレッテルから逃れる術を模索していた。彼が行き着いたのが、日常何気なしに行っている行為が人間の“生”そのものであると会得。彼は平凡な日常に仏教でいう“行”を見出した。般若心経を唱えることが必ずしも救いにならなかったかもしれないが役者として常時、闘いの日々に身を置いていた優作にとっては唯一心の拠り所だったかもしれない。(175)

11.全く違ったキャラクター
 大藪春彦原作「野獣死すべし」で優作は全く主人公・伊達邦彦を別のキャラクターにしてしまう。最初、現場では賛否両論あったようだが、結局は彼がそれを押し通した。虚弱なインテリを作り上げるために、何と彼は4本の奥歯を抜き、10キロ減量し、スタッフの前に亡霊のように登場したのだ。更に自分の背は高過ぎるから5センチ切ろうなどというとてつもないことを考えてもいた。 (177)

*語り継がれる松田優作の伝説は「11ネタ」ありますので掲載に良いものを選択して下さい。

【 代表作の紹介】
1. 「太陽にほえろ!」
 七曲署捜査第一係・柴田純。ボス(石原裕次郎)を中心にチームワークで難事件を次々に解決して行く。53話から112話まで柴田純(ジーパン)が出演。推奨エピソードは最初と最後はもちろんだが、60話「新宿に朝は来るけれど」優作ゆかりの人・桃井かおりが恵美役で出演。彼女とジーパンのいたちごっこが面白い。72話「海を撃て!!ジーパン」ジーパンの懸命な射撃練習と芸術的な走り姿に注目。容疑者役に優作ゆかりの人・山西道広。96話「ボスひとり行く」優作ゆかりの人々が工員や悪役で多数出演。探偵物語出演陣と比較してみるのも面白い。(249)

2. 「探偵物語」(ドラマ)
 工藤探偵事務所・工藤俊作。工藤がお茶目にギャグを連発し、アドリブを利かすので依頼は解決不能に見えるが最後は何故か締めてしまうという迷探偵。見どころは、工藤ちゃんと絶妙に絡む服部、松本の両刑事、彼の愛するナンシー、かほりなど街の仲間との掛け合い。推奨エピソードは1話「聖女が街にやって来た」美由紀夫人と初共演。彼女扮する女生徒とシスター役に注目。5話「夜汽車で来たあいつ」親友・水谷豊が何でもやる課・田村役で出演。27話「ダウンタウン・ブルース」陽気な工藤が殺し屋・鳴海に変わってしまう衝撃的な最終話。(249)

3. 「最も危険な遊戯」「殺人遊戯」「処刑遊戯」
 一匹狼の殺し屋・鳴海昌平。凄腕の鳴海はマグナム44を片手で軽々扱い、報酬はジャスト2000万円。どんな巨大な相手にも彼は一歩も引かない。見どころは「最も」の標的が国家的なプロジェクトにうごめく人間達、「殺人」がやくざ同志の抗争、「処刑」が鳴海と同じ殺し屋。それぞれの標的に対する彼の体の鍛え方やアプローチの違い。最後は再び一匹狼に戻るという殺し屋の美学というより男の美学。それぞれキーになる女がいる。その女と鳴海の関係を感じ取る、オープニングとエンディングのギャグを見逃さないことが遊戯シリーズのポイント。(249)

4. 「蘇える金狼」「野獣死すべし」
 東和油脂経理部・朝倉哲也(金狼)、元外国通信社カメラマン・伊達邦彦(野獣)。朝倉は昼、気弱なサラリーマン、しかし、夜になると大きな野望を持つ金狼。伊達は一見クラシックを愛するひ弱なインテリ。実際は冷酷非情で銀行強盗を企む野獣。「金狼」の見どころは会社の弱点を見つける目的で女に接近する場面。ヘロインの取引をするための小島で相手の策略を見抜き、手下を皆殺しにする場面。「野獣」は真田に女を殺させる場面。列車で柏木刑事に対して、「リップバーン・ウィンクル」の話をする場面。大藪の原作と比較するのも楽しい。(250)

5. 「家族ゲーム」
 家庭教師・吉本勝。4人家族で団地に住む沼田茂之を高校に受からせるために来た二流大出の家庭教師。吉本は受験勉強といじめに苦しむ茂之に対し、彼独特のやり方で茂之を指導し、家族を巻き込み、飄々と戦う。見どころは何といっても数回登場する家族と吉本でする食事の場面。テーブルは横長。5人は横並びで音を立てて、食べながら会話をする。これは非常に特徴的な場面で森田監督、優作の鼓動が伝わってくる。吉本の指導法、茂之のリアクションが非常に個性的であり、カメラアングルも印象的。この作品はアメリカでも大絶賛される。(248)

6.「ブラックレイン」
 やくざ・佐藤浩史。ニューヨークで凶悪犯・佐藤を逮捕したニックとチャーリー両刑事が日本で偽刑事にだまされ、佐藤を取り逃がす。彼らは大阪府警の松本と組み、佐藤再逮捕に全力を挙げる。見どころはニックとチャーリーが見ている中、レストランに登場する佐藤の姿。一瞬にして風を変えてしまう。それはスクリーンからでも充分に伝わってくる。これが優作にとってはハリウッドに対するほんの名刺代わりだったのだが遺作になるとは残念である。また、最後にニックと佐藤が格闘する場面には2パターンあり、展開上無難な方が選ばれた。(248)



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