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「太陽にほえろ!」のジーパン刑事が殉職するシーンで、松田優作は助けた相手に銃で撃たれ、血のついた手のひらをぼうぜんと見つめ、「なんじゃこりゃあ!」と叫ぶ。この叫び声は脚本にない、松田優作のアドリブだったそうだ。
時に1974年8月。石油ショックによる物価の高騰、ノストラダムスの大予言など終末論の大ブーム、そして高度経済成長期のシンボルだった長嶋茂雄の引退という世相の中でのことだった。迷走を始めた日本社会の中で、半ばぼうぜん自失の態(てい)だった若者たちの、いら立ちと憤まんの代弁のように、ジーパン刑事は怒鳴り、そして死んでいった。この死にざまで、松田優作は同世代を生きる若者のカリスマの座に着いた。
それ以来、彼が演じる役は刑事(探偵)か犯罪者かのどちらかに限られた感じがあった。もちろん、文芸映画「陽炎座」(81年)、「それから」(85年)のような例外はあるが、若者たちが自分の姿の投影を見たのは、やはり犯罪という、社会とのギリギリの接点で、自分とは何かを問いつめ続ける松田優作の姿だったと思う。映画「最も危険な遊戯」(78年)での殺し屋も、テレビ『探偵物語』の探偵も、長い手足をどこか窮屈そうにもてあましながら、自分の本当の居所のない社会と対じしていた。
しかし彼が人生の最後に演じたのは、ハリウッド映画「ブラック・レイン」(89年)の中での、全くと言っていいほど観客が自己投影できない、悪の権化のような犯罪者役だった。いったい、松田優作はこの映画で何を伝えようと思っていたのか。その意味をこちらが考える暇もなく、39歳の若さで帰らぬ人となる。何故かその死が、時代の壁にぶつかり続けた末の憤死に思えるのがいかにも彼らしい。
(2003.4.25 北海道新聞夕刊より)